今年、全国で初めて、地域独自の「小樽おもてなし認証」制度が誕生。その第1回目の認証を受けた小樽市内の企業や団体、店舗にインタビューを行い、その業種や店ならではの「おもてなし」について語ってもらいます。今回は、認証を受けた企業のなかでも一番多くの店舗の参加があった北一硝子の各店・店長にインタビューをさせてもらいました。
北一ヴェネツィア美術館
大きな存在感のある建物ではあるものの、「北一硝子」グループの施設だとは知らなかった…という方も多い「北一ヴェネツィア美術館」。1階と2階にはヴェネツィアから来た大きなゴンドラが! また、中世貴族の文化や歴史を感じられる世界にも誇れる展示のほか、イタリアのマエストロ(職人)が手掛けた美しい芸術作品の数々が並びます。ヴェネツィア美術館の金指館長も「北一硝子の他の店とは、少し接客が異なります」と語るように、静かな空間でゆっくりじっくりと作品と向き合う空間を作ることが、ここでの「おもてなし」になるのです。

とはいえ、美術館の1階は入場無料ということもあり、国内、海外問わず、たくさんの老若男女が行き交います。なかには、美術館の受付と知らずに道を聞く方も多いそうで、「インフォメーションとして、快くご対応しています。美術館の業務ではなくとも、様々なお客さまに臨機応変に対応する実践の場とも言えます」と穏やかな笑顔で答えてくれました。
また、美術館の2階には、貴族体験ができる人気のコーナーも。ここでは「楽しみたい!思い出を作りたい!というお客さまのお手伝いに徹します」という金指館長。イタリア製の様々な衣装・小道具を選んでいただき、写真を撮影します。近隣の高齢者施設の利用者の方がレクリエーションで訪れることもあるそうで、「とっても楽しそうで。いつもと違うことをされるのが刺激になっているようで、私たちも本当に嬉しくなります」と話してくれました。
さらに、金指館長が一番思い出に残っているエピソードとして、東日本大震災のすぐ後に、宮城からいらっしゃったご夫婦が忘れられないそう。撮影用のドレスの着替えを手伝っていた際、「前から旅行を予定していたんだけど、こんな時に来ちゃいけないかと悩んでたんですよ…」と、お客さまが本音を語られたそうです。「その時、改めてそれぞれのお客さまは、いろいろな事情を持って来られているんだと実感しました。だからこそ、“来てよかった”と心から楽しんでいただけるように接しています」と語る金指館長。美術館と、思い出作りの体験の場。お客さまに楽しんでいただく…というベースは一緒でも、「それぞれの場所・空間に合わせたおもてなしが大切」だと、改めて感じさせられました。

ミュージアムショップ
北一ヴェネツィア美術館の1階に併設された、「ミュージアムショップ」。ヴェネツィアンガラスのオブジェやアクセサリーなど、カラフルで個性的な品々が並ぶ素敵なお店です。ただ、「ここがどういうお店なのか、知らずに入ってくるお客さまが多いです」と話す大西店長。7割くらいの方は北一硝子の店だということも認識していないそうで、「何もご存じないという前提でご説明していくと、“ヴェネツィア直輸入の店なんだ”とわかっていただき、北一硝子とイタリアとの関係もご理解してもらえます」と嬉しそうに語ってくれました。

そんな説明は、海外のお客さまにも必要な時も。「そこは勇気と度胸、ボディランゲージで臨んでいます。もちろん、タブレットの翻訳機能なども活用しながら対応しますし、70代のスタッフも臆することなく熱心に対応してくれるので助かっています」とのことですよ。
また、ミュージアムショップの商品は、高額なものが多いのも特徴です。しかし、時には、商品の扱い方について注意せざるを得ない時もあるそう。「そういうお客さまが続いてしまうと、つい口調が荒くなってしまうことも事実です。ただ、自分自身の体験上、注意のされ方によっては、店の印象すべてが悪くなってしまいます。ですから、注意する際にも「ダメです」という否定ではなく、プラスの表現に置き換えてお伝えしています」という大西店長。万が一、お客さまが商品を落としまっても、「お怪我はないですか?」と、まずはお声がけするんだそうです!
以前、良かれと思って行った対応で、お客さまを怒らせてしまったことがあったそうですが、その対応を見ていた別のお客さまから「さっきの接客、よかったですよ」と声をかけてもらい、それが今でも心に残っているのだそう。接客、おもてなしに、絶対の正解はないのでしょう。「なにより大切にしているのは、ミュージアムショップの商品は、価値が高いということをお伝えすることです。ただ商品を買ってもらいたいと思って接客するのではなく、ヴェネツィアンガラスの価値や魅力をお伝えして、これは良い品物だと思っていただくことを心掛けています」と語る大西店長。おもてなしには、「価値をきちんと伝える」ということも含まれているんですね!

ヴィノテカ
20歳で北一硝子に入社して以来、ずっとお酒の担当という棚内店長。イタリアワイン専門店「ヴィノテカ」に立つ姿も、北一硝子の社員というよりホテルなどのソムリエといった雰囲気です。小さなお店とはいえ、ご来店するお客さまはワインに詳しい方も多く、「イタリアワインの店ですが、ワイン全般について知らないと、お客さまが満足するようなご説明ができません。しっかりとご説明ができることが、ヴィノテカの大切なおもてなしのひとつだと思います」と語る棚内店長。逆に「小樽のワインはないの?」「なぜイタリアワインなの?」というご質問も多いため、しっかりとコミュニケーションを取ることで納得をしていただくと、ご購入に繋がることが多いそうです。
まだ棚内さんが入社して間もないころ、愛知からいらしたワインに詳しいご夫婦から、いろいろとアドバイスをいただいたことがありました。「それから、年に1~2回は必ずワインを買いに来て下さっていたのですが、数年前には、市内の飲食店で偶然にお会いしまして。そこでLINEを交換して仲良くなりまして。そのご夫婦のおかげもあり、もっとワインを勉強しなきゃと頑張るようになったんです。そのお客さまとは、現在まで20年近くお付き合いが続いています」と教えてくれました。
店内では、常時20種類くらいの試飲も行っています。「他では買えないワインも多くありますし、どう付加価値をつけるかということも大切にしています。肉に合う、魚に合うだけではなく、このワインは鍋や家庭料理に合うというご提案もしながら、お客さまにゆっくりと選んでいただけるよう心がけています。また、ワインを手に取りやすいように、広告を間引くなど、小さなことも工夫をしています」と語る棚内店長。市内・道外問わずリピーターも多く、なかには「〇〇さんいますかー?」と入ってきてくれるお客さまも。ワイン好きのお客さま一人一人と密なコミュニケーションを取ることが、ヴィノテカ流の「おもてなし」なんですね!

